日蓮正宗の勤行　正行と助行　　　　（大白法　１０５５号　仏教用語の解説より）

　私たちは常日頃、信仰の基本として、御本尊の前で勤行を実践しています。

　勤行では読経と唱題を行いますが、本宗では、題目を唱える唱題を正行、法華経『方便品第二』と『如来寿量品第十六』の読誦を助行とします。

　さらに助行の中にも、寿量品読誦を正意（しょうい）、方便品読誦を傍意（ぼうい）とします。

　日蓮大聖人は、建長五（１２５３）年に宗旨を建立されて以来、一切衆生に法華経を受持し、題目を唱えることを勧められました。そして『唱法華題目抄』に

　「常の所作は題目を南無妙法蓮華経と唱ふべし、たへたらん人は一偈（いちげ）一句をも読み奉るべし」（御書２２９㌻）

と、修行の中心は題目を唱えることで、経を読誦することは、その助けであると示されています。また、正行・助行について総本山第二十六世日寛上人は

「洗濯の際、灰汁（あく）（洗剤）が水の用（はたら）きを助け、塩や酢味噌が米・麺の味を助けるように、助行には正行の題目の功徳を助け、顕わす意義がある（趣意）」（六巻抄　１６１㌻）

と教示されています。

　方便品・寿量品のみを読誦する理由

　法華経は『序品第一』から『普賢菩薩勧発品第二十八』までの二十八品（二十八章）があります。

　大聖人御在世の信徒、大学三郎殿の女房が法華経の読誦について質問した際、大聖人は

　「殊（こと）に二十八品の中に勝れてめでたきは方便品と寿量品にて侍（はべ）り。余品は皆枝葉（しよう）にて候なり。されば常の御所作には、方便品の長行と寿量品の長行とを習ひ読ませ給ひ候へ」（御書　３０３㌻）

と、毎日の勤行の際には方便品と寿量品を読誦するよう御教示されています。

　他門の日蓮宗では、法華経二十八品のすべてを読誦する一部読誦の修行をしていますが、こうした修行に対して日寛上人は『末法相応抄』に

　「一には、正業（しょうごう）として題目を妨げる。二には末は折伏の時である。三には、法華経の謂（いわ）れを知らないからである（趣意）」（六巻抄　１１８㌻）

と、法華経一部（ここでいう一部とは全部の意味＝編者註）を読誦することは末法では許されないと誡められています。

　方便品読誦の意義

　方便品の読誦について日寛上人は、所破（しょは）と借文（しゃくもん）の意義があると御示しです。大聖人は『十章抄』に

　「一念三千の出処は略開三の十如実相なれども義分は本門に限る」（御書　４６６㌻）

と、一念三千の根拠となる経文は方便品の諸法実相・十如是だが、一念三千の本義は本門にあると示されています。

　法華経の迹門十四品の説法は、釈尊が始成正覚（しじょうしょうがく　インドに出現し三十歳で始めて成道した）の立場でなされたものですが、本門寿量品から立ち返って方便品を見る時、一念三千という悟りの本地が久遠（くおん）にあることが明かとなります。このように本門の説法から立ち返り、迹門を本門の一部とすることを「体内（たいない）の迹門」といいます。逆に本門と切り離された迹門を「体外（たいげ）の迹門」といいます。

　私たちが読誦する方便品は、「体内の迹門」であり、これを「寿量品が家（いえ）の方便品」ともいいます。

　さらに日寛上人は、体内の迹門である方便品を読誦することによって、迹門の所詮（しょせん）の義を「所破」し、能詮（のうせん）の義を「借文」すると仰せです。

　所詮の義の所破とは、方便品はあくまで始成正覚の釈尊の説法ですので、方便品の経文の所詮の義（経文から詮せられる意義）を破折するのです。

　能詮の義の借文とは、一念三千の教理的な根拠は、方便品の諸法実相・十如是の経文にあるので、その文を借りて、本門寿量品の久遠の一念三千の悟りを能く詮じ顕わすということです。

　私たちが読誦する方便品は、体内の迹門となり、自ずと所破・借文の意義が具わるのです。

　寿量品読誦の意義

　寿量品読誦について日寛上人は、所破（しょは）と所用（しょゆう）の意義がると示されています。

　寿量品の顕本（けんぽん）には、文上顕本と文底顕本の二種があります。

　文上顕本とは、寿量品に「我実成仏」と説かれる釈尊の本地（ほんち）を、五百塵点劫（じんてんごう）の色相荘厳（しきそうしょうごん）の仏身であると見ることです。これに対して文底顕本とは、寿量品の「我実成仏」を、五百塵点劫よりさらに前の久遠元初（がんじょ）における凡夫即極（そくごく）・即座開悟（かいご）の成道であると見ることです。

　また、文上顕本には体外と体内の二種があり、体外とは文底を知らず、釈尊の本地が五百塵点劫にあると信ずること、体内とは、釈尊の本地が文底の久遠元初にあることを知り、五百塵点劫の成道が衆生教化のための垂迹（ずいじゃく）であると信ずることです。

　つまり、文底が顕われる已前の文上が体外、文底が顕われた後の文上が体内となります。釈尊在世の衆生の成仏は、体内の得益（とくやく）によるものです。

　これに対し、文底顕本とは我実成仏を直（ただ）ちに久遠元初自受用身の成道とみることで、これを内証（ないしょう）の寿量品といいます。内証の寿量品の二千余字を能詮（のうせん）とし、この能詮の文によって顕わされる所詮が、本因妙の妙法蓮華経の五字です。

　私たちの寿量品読誦は、文上における体内の辺を所破し、文底内証の寿量品の二千余字の文を用いて、題目の功徳を助顕（じょけん）するのです。

　正行の題目

　正行とは、本門の本尊を信じて南無妙法蓮華経と唱える、本門の題目の実践です。

　唱題については、諸御書に甚深の意義が説かれていますが、その一分を拝すると『当体義抄』に

　「正直に方便を捨て但（ただ）法華経を信じ、南無妙法蓮華経と唱ふる人は、煩悩（ぼんのう）・業（ごう）・苦の三道、法身・般若（はんにゃ）・解脱（げだつ）の三徳と転じて、三観（さんかん）三諦（さんたい）即一心に顕はれ、其の人の所住の処は常寂光（じゃこく）土なり」（御書　６９４㌻）

と、本門の題目を唱えることで即身成仏の功徳が具わると示されています。

　正行・助行を欠かさず行ずる

　私たちが行う勤行・唱題には、正行・助行の深い意義と功徳が自ずと具わります。大聖人は『四条金吾殿御返事』に

　「受くるはやすく、持つはかたし。さる間成仏は持（たも）つにあり」（御書７７５㌻）

と示されていますが、勤行・唱題を行わなければ、大聖人の仏法を受持しているとはいえません。私たちが勤行・唱題を信心の基本として、倦（う）まず弛（たゆ）まず日々精進する中に、自らの成仏があるのです。以上