妙とは蘇生の義                 日顯上人ご指南

 

 

 妙とは蘇生の義なり。蘇生と申すはよみがへる義なり(中略)爾前の経々にて仏種をい(焦)りて死せる二乗・闡提(せんだい)・女人等、妙の一字を持ちぬれば、いれる仏種も還りて生ずるが如し。天台云はく『闡提は心有り猶作仏すべし。二乗は智を滅す、心生ずべからず。法華能く治す、復称して妙と為す』云々 『法華題目抄』(御書360)

 

 大聖人様の御文において、死人が蘇るという意味をお示しであります。なかでも、蘇生が一番難しいとされるのが声聞・縁覚の二乗であります。「闡提」というのは悪人のことであり、因果の道理を信じない者です。したがって、善悪の見境がないため、事につけ折に触れて悪事を行うのです。

 現在、世間においても、人に隠れて様々な悪事を働き、悪財を貯め込んだりしますが、それが発覚し、司直の手に捕まって結局、もとの木阿弥となる姿もあります。本人にしてみれば、真剣に悪を行じ、それが最後にすべて水の泡と化してしまい、世間からも悪業の印を押されるという結果ですが、これは、いわゆる善因善果、悪因悪果という因果の道理を知らないからです。さらに、自己の欲のために強盗、殺人等のあらゆる犯罪を犯して愧(は)じない者もあります。しかし、このような闡提(悪人)でありましても、仏の教えでは、まだ成仏はかなうのであります。

 ところが、小乗の教えによって、絶対に成仏できない衆生が二乗です。二乗は、見惑、思惑をまず断尽して、苦の因である煩悩を滅し、次に苦の果である身体を滅します。小乗の世界観、国土観から言えば、このあとは再び、この世にも地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の六道のなかにも生まれてくることはありません。では、どこへ行くのかといいますと、これは灰身滅智、つまり、なくなって空無になるのです。ですから、小乗のなかでは成仏はできないということです。

 ところが、大乗の教えからは、この見惑、思惑を断尽した阿羅漢は、死んだあとも心は消滅しないと説かれえております。すなわち、これは小乗と大乗の真理観、世界観の違いであり、生まれ変る場所として凡聖同居土・方便有余土・実報無障礙土・常寂光土という四土のうちの、方便有余土へ行くのであります。

 凡聖同居土とは、六道の凡夫と三乗の聖者が共に住む我々の娑婆国土を言い、方便有余土とは、方便道である見惑、思惑を断尽したが、迷いの余りとしての塵沙惑、無明惑をいまだ断尽していない声聞・縁覚・菩薩が住む国土を言います。そして実報無障礙土とは、別教の位において初地以上、円教の初住以上の菩薩が住む国土を言い、最後の常寂光土とは、法身・般若・解脱の三徳を具えた仏の住む国土を言います。

 二乗は、空の悟りを目指して修行するのですが、結局、死んだあとは大乗から見ますと、我々の住んでいる凡聖同居土の次にある、方便有余土に生まれ変ることになっております。

 

 

 

 

 

 

 大聖人様の御書中に、分段の生死と変易(へんにゃく)の生死ということが示されておりますが、分段の生死というのは、六道輪廻する凡身の寿命形態に分々断々のけじめがあるということです。つまり、六道の生死では、死んだあと業によって中有(ちゅうう)に存する場合もあれば、業の深い人は直ちに地獄へ行く場合もあります。

 中有ということは、閻魔王がこの者をどこへ行かせるか考えておる時間であり、一時的に存する場所であります。そこから地獄や餓鬼、あるいは畜生へ生まれたり、人間にもう一度生まれてきたり、それぞれの所へ生まれかわるのであります。そして、生まれてくる時は、母親のお腹の中に入り、人間では十ヶ月ののちに生まれてくるのであり、これらが分段の生ということであります。死ぬ時にも分段の死があり、このように分々段々の形の生死がはっきりしているのであります。

 ところが変易(へんにゃく)の生死というのは、心のみが次から次へと移り変っていくことであり、変易はそのように移り変わるという意味であります。この生死は、我々凡夫のように、生死が分段するものではなく、色法を消滅した二乗の阿羅漢が行き着いた、一種の聖者の心でありますから、ある心の境界からもう一つ別の心の境界に移り変わっていくという生死です。これは、我々六道の凡夫の目には見えないのです。

 しかし、法華経においては一切が妙の法であり、全体を具足する法界観から生死の全体を照らしますので、変易の生死や分段の生死でも、妙法を受持して成仏することによって「蘇る」のであります。法華経において在世の阿羅漢等も成仏の記別という形で、法華経によって成仏したことが述べられており、これが蘇生の義であります。

                         (妙法七字拝仰 上 88ページ)

 

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